24.1.19 「収集の段階」を追加。

アニメの原画について

はじめに

 私はアニメの原画が好きで収集しています。

 いまアニメの原画を収集している人口ってどれくらいなんだろう、恐らくそんなに多くはなさそう。セル画と比べれば一見地味だし、アニメが好きな人は完成画面に近いセル画を好むのが普通と思う。対して原画はアニメというより絵に興味がある人に刺さるアイテムで、そういう視点で見ればとても奥深いのである。

 私は作画技術を見て楽しむ以外に、直筆の1点物という点にも惹かれています。理由としては、直筆はコピーと比べて得る情報量が多い事を実感しているから。そして1点物であれば、金銭的に困る状況に陥った時も売ることで購入費用を回収できる。そのような理由から思い切った金額でも使えます。

 収集を始めてから十数年が経過して、初期に比べて原画収集への気持ちも落ち着いてきました。このまま同じことを繰り返しているより、これまでの経験をどこかでまとめることが、私自身の成長にもつながるのではないだろうかと思いこのページを作ってみた次第です。少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。

※アニメの制作素材は「原画」とか「動画」とか紛らわしい名前で困っていますが。このサイト内での「原画」単体での表記は「レイアウト/ラフ原〜修正原画〜第二原画〜修正原画〜動画」までの直筆素材をイメージしています。

2023/09/24

原画収集に大事な3つのポイント

 目を引く原画、面白い原画は沢山ありますが、むやみやたらに集めてもあまり満足感は得られません。楽しく続けていくには、失敗経験を元にルールを決めたり、自分自身の能力を鍛える必要が出てきます。私がこれまでの原画収集で感じた大事な3つのポイントを紹介します。

①目を鍛える

 近年制作の作品ではセル画は生まれないので、素材が欲しければ原画を集めることになるけれど、絵にそこまで興味が無い場合は、完全には楽しめないのではないだろうか。アニメーション制作の特徴として演出や作画監督の修正を経ることにより、ほとんどの原画は一定以上のクオリティに達している。その中でも光る原画を見つけるには、とにかく沢山の原画を見て自分の目を鍛えるしかない。一人のアニメーターによるズバ抜けた技術であったり、共同作業で各担当が素晴らしい働きをしたことから生み出される違和感を正しく感じることができたら、収集がより楽しくなってくるはず。

②収集ルールを決める

 収集を開始した当初はルールも決めず、とにかく気になったものを集めてみるという感じでした。中盤からはテーマを決めて集めようと試みたことも(「作品」「アニメーター」「素材別」「特定のパーツ」など)。しかしいずれも長くは続かず、もっと細かく自分が原画に求めているものは何か考えるようなりました。最近では収集ルールが固まってきたことで、常に突発的な原画との出会いに振り回されることなく、必要だと確信した原画のみに集中できるようになりました。

③お金との付き合い

 満足できる収集を達成するにはお金の使い方が非常に大事です。その時々で気になったものを買い集めていると、本当に心から欲しいものが出てきたときに資金不足で購入できないなんて状況に陥ってしまいます。たとえ頑張って購入できたとしても、その次の週にもっと欲しいものが現れるなんてことも普通に起こります。余裕を持って臨むためには②のようにルールを決めて、本当に自分の手元に置くだけの理由がある原画なのか判断してから動く必要があります。購入時だけ熱くなって、手元に届いてから一度見て満足してしまい、その後は何年もしまい込んでしまうような寂しい収集になるのは避けたい。

収集方法

 原画を入手できる方法としては「ネットオークション(フリマ)・ネットショップ・実店舗・購入特典・プレゼントCP」など。そのなかでどれだけ触手を伸ばしておけるかが、収集能力の差につながります。例えばネットオークション(フリマ)だとYahoo!まんだらけが出品数も多く目につきやすいですが、メルカリラクマセカイモンではどうでしょう。あまりいい品があるようには思えないかもしれませんが、実際はそんなことはありません。

 出品数は少なくても根気よく見ていれば、必ずいい品と巡り合う機会があります。そしてその場所に出品されたことに気づく人数は、メジャーな場所より少ないので安く入手できることがほとんど。掘り出し物を見つけ出して安価で購入する、それもコレクションの醍醐味のはず。1点物なのでその場所でしか入手することができません。機会を逃して後悔しないように自分に可能な範囲でのチェックを続けています。

 他にコレクター間での売買や交換という方法もあると思いますが。私の場合はトラブルをなるべく避けたいためそのようなことはあまり行っていません。収集初期に少しだけ行ったくらいです。

原画の保管

 原画はペラッペラの紙です。制作過程で大量の紙を重ねて扱うので、特に薄くしていると思う。制作時は便利だけれど、その後の保管にはいろいろ気を付けないといけないところがあります。また、大量の紙を使っているので、保管するためのスペースが問題になることも。

保管方法

 原画を守るだけなら、ダンボールにでも入れて部屋の隅に置いておくようなことになるのですが、鑑賞することが収集の大きな理由ですよね。そのあたりのバランスを考えながら、それぞれで自分に一番合った方法を探すことになります。その方法ごとに、原画に劣化を引き起こす要因が必ずあるので覚悟も必要です。

 私の場合は写真撮影をしてクラウドにアップすることで、いつでもどこでも見れるようにする。また、気に入った部分だけ分けてクリアファイルに収納します。身近に置いておくことで現物をいつでも見ることができるようにしました。のこりの原画はビニールで包んで、ダンボールにまとめて生活の邪魔にならないところに収納、ふと見たくなった時に取り出してパラパラ見ています。

保管スペース

 すでに収集をしている人なら分かると思いますが、アニメの原画はとにかく場所を取る。カット単位で買うと100枚超えなんてものも普通にあるので。気づくとダンボール何箱分にもなっていて、何がどこにあるか分からないような状態に陥ることも。たとえスペースがあったとしても、人ひとりで管理できる数には限界があると思う。

 私は手元に置く必要のない原画が出てきたら、本当に必要としている人の元に届くようになるべく手放すようにしています。惰性で手元に置いておくと、生活に必要な場所がどんどん侵されて日常生活の質が下がってしまう。生活の中で楽しさを感じるために収集をしているのであって、ストレスを感じるのであれば本末転倒になってしまいます。

原画の劣化

 紙は少しずつ劣化していきます。それは仕方のないことですが、なるべく対策をして長持ちさせたい。劣化の原因について例をあげると。

折れ…作画用紙はペラペラです。額に入れるとき、ファイリングするとき、収納用品から出し入れするとき。ちょっとしたことでクシャっと小さな折れ跡が付いていきます。

…紫外線や赤外線を浴びると紙は変色していきます。長期間光に晒すような環境は避けた方がいい。

湿気…湿度が高いところに置くと、紙が湿気を吸収して波打ちます。湿度の変化が少ない場所に保管するのが良いといわれています。

セロテープ…劣化してのりが変色したり、粘着質が残ったりします。ですがこちらは下手に触らない方がいいかも。粘着力があるうちに剥がそうとして原画が破損しても困りますし。きれいに剥がしたからといって粘着物は紙に残っているので経年での変色は避けられないかと。

ホチキス…長期間付けたままにすると、錆が生じて紙を腐食していきます。留められている場合はなるべく早くに、慎重に取り除きましょう。

 特に酸性紙を使っていた頃の素材は劣化が早いようです(変色してポロポロ崩れていく)。近年制作された作品では劣化しにくい中性紙が使われていますが、それでもゆるやかに進んでいきます。

 劣化を気にしてずっと暗所にしまい込んでも、カビや虫の被害を受けることがあるようです。たまには光や空気にさらしての殺菌も必要とのこと。

原画情報の管理

 購入した原画の情報をリスト化するために、Googleドライブのスプレッドシートにまとめています。本来は何か問題が生じたときのために、いつ誰からどの素材を購入したのか確認できるようにと作成したものです。継続して記入していると、自分が何を所持しているのかまたその経緯、2022年には何度購入して総額いくらかかっているのかなどの確認も出来て便利。PCが壊れたりしてデータが消えてしまうと困るのでWEB上で管理。

 購入機会が一番多いのがヤフオクなので、落札商品一覧画面の行をまるっとコピーして貼り付ければ、「オークションNo」「商品名」「落札金額」「購入日時」「出品者ID」欄が埋まる形に。ヤフオク以外の場合は少し手間ですが個別に調整。万一盗品だった時に、自分は当事者ではなく購入しただけということの証明にもなると思い入力しています。

 それらの情報の後ろに管理用の入力列を増やしています。例えば「作画スタッフ」「キャラ名」「シーン」「話数・OPED・劇場・OVA・CM」「素材の種類」「枚数」など判明した範囲で記入。

 管理用の項目で「反省」というのもあるのですが、その商品の購入に対する自己評価を記入しています。「正解・妥当・失敗」などのあとに具体的な内容を記入。購入にあたっての自分の行動を振り返り評価して、今後につなげていきます。今見ると「入札中に正気を失った、多分修正が抜かれてる」とか当時の気持ちも思い出せて結構楽しい。当時は失敗だと思っていたものが正解だったパターンもあったり。

原画とは

 アニメーション制作時に出来上がる中間生産物の中から、絵として描かれた素材の事を指します。

原画の種類

レイアウト…背景・キャラクター・エフェクト・カメラの動きなど、そのカットの要素が詰まっている。カメラの動きが大きい場合は、大判になったり複数枚になることもあるけれど、大抵は1カットに1枚なので、原画全体から見た数は少ない。

ラフ原画…レイアウトとセットにしてアクションのベースを作画。原画マンによる演技プランをラフで示して、後に続く「修正」を加える際のアタリとして使う。修正前提なので、通常だと細部をガッツリ描き込んだりはしない。

修正原画①…演出や作画監督がレイアウトやラフ原画に対して修正を加える。この時点の修正は演技にあたる部分なので多少ラフめな絵となっていることが多い。カゲなども演出上、最低限必要な部分だけを指定していたり。

第二原画…レイアウト、ラフ原画、修正原画の意図を組んで清書した原画。近年では経験の浅いアニメーターが担当することも多い。

修正原画②…第二原画に対して、作画監督が細部に修正を加えた原画。この時点で対象全体に修正を加えたものを「全修正」という。

動画…第二原画と修正原画を元に、清書(クリンナップ)してから間の絵(中割り)を作画。特殊な例を除き、新人アニメーターが作画を担当する。

版権原画…ジャケットやポスター、書籍、グッズなどに使われる絵の原画。一見、上記の原画たちと同じように見えるが、実は全く性質の違う特別なもの。何が違うかはいずれ機会があれば紹介します。

 他には”背景”や、狙っての入手は難しいですが”直筆設定資料”や”直筆絵コンテ”なども含まれます。また、絵素材ではないですが”カット袋”や”タイムシート”は素材についての付加情報を得ることができるので、付属しているに越したことはありません。

 それぞれの素材ごとに役割や特性があるのだけれど、それを知らないと収集・鑑賞の楽しみが減ってしまっていることになる。例えば動画の見どころを知らずに[すべての動画=原画より価値の低いもの]というような固定観念があると「なぜ動画なのに高値がついているんだろう?」と疑問に思うだけで手は出ない。いずれ気づくこともあるかもしれないけれど、そもそも良い動画は良い原画などより希少なので、見つかるのは幸運なめぐり合わせみたいなもの。入手機会は少ない。

 各素材の見どころについては、そのうちにnoteに掲載するかも。

原画の鑑賞

 アニメの原画には”絵としての要素”と”アクションの要素”が含まれているけれど、私が原画に求めるものは単体の絵としての要素です。アクションに関しては完成画面を見れば8割方確認できるのと(上にセルが重なっている部分は見えないけど)、原画でアクションを確認するのは非常に手間な上に汚れや破損も引き起こすリスクがあるから。よほど興味がある場合を除き手は出さないようにしている。

 絵というものが平面に立体感や質感を持たせる技術なので、アニメにも同じ技術が使われている。絵を見慣れていないほど、より描き込まれていて分かりやすい状態を好む。例えばセル画はカゲなどもしっかり付いていて、色も塗られているので写真のように非常に分かりやすい。次が第二原画や修正原画・レイアウト、セル画時代の動画などだろうか、実線・色トレス線そして塗り分けが表面に描かれているから面を感じやすい。残りはラフ原画や裏塗りの動画、線が主張している状態。

 描き込みの多い絵は確かに分かりやすいけれど、断じて描き込みが少ない絵が技術が足りないという訳ではない。そもそもアニメはキャラクターの線が1本増えると、1話分だけでも数百~千本くらいに引く線が増える。どれだけ少ない線量で求めている表現を演出できるかが勝負の世界だ。不要な線は排除して、必要な線の質を高めて最大限に生かすのも必要な技術のひとつである。そのためアニメーターの線に対するこだわりや工程ごとの正しい作画方法が分かってくると、いろいろな素材の見方が楽しめるようになります。

収集の段階

 子供の頃から考えると、原画以外にもトレーディングカードや天然石、同人誌などの収集をしてきましたが、いずれも似たような流れに乗って終息を迎えました。下記の①~④のような感じです。


①集めるだけでとにかく楽しい
鑑賞も楽しいし、入手できるまでのチャレンジや工夫を考えるのも楽しい。

②認められたい
収集品を見せることで驚いてもらいたい。褒めてもらいたい。評価してもらいたい。という気持ちがありアピールしてみる。収集品を褒められたら、それを集めている自分が評価されるも同じ。だけどただ見せたところで評価はされない。生み出した人・加工した人はすごいけど、それをお金を払って所持しているだけの人は何もすごくないことは、他のコレクターに限らず一般人の誰もが知っているから。当たり前の事だけれど、自分の事だと盲目になりがち。

③自己完結
収集物を自分のみで消費して墓まで持っていこうかな。評価基準が自分のみなので、他人の評価を受けることが無く嫌な思いをすることは全くない。自分の中では常に100点だけれど空しさもあり。

④ふるいにかける
収集量が増えたことで何が一番大切なのか知りたくなり、手放してもいいものから整理していき、最後に残ったもののみ手元に保管して収集を完了。おそらく違う楽しみを見つけてそちらの方に目が向かている。飽きが入っている。


 原画収集に関してはこれまでと同じ流れにはしたくないという気持ちがあり、別のルートはと考えた時に思い至ったのが下記です。

★収集を自分のカタチにまとめる
収集物、収集経験に自分ならではの表現を絡めて発信してみるか、と。集めるだけでなく、コンテンツの作り手になることで違うルートが見えてくるかもしれない。そんな気持ちでこのページを作りました。収集対象にどんどん希少性を求めるように変化していって、原画にたどり着いたからこそ生まれた選択肢かもしれない。広く認知されているような商品だと、すでに似たような発信している人も多いだろうし。いつか状況が許せば図録のようなものも作ってみたい。自分だけで鑑賞しているにはもったいないようなものがたくさん集まった。

権利のはなし

 原画を入手すると所有権を得ることになります。※1 では原画の所有権を有していると私的使用以外にどんなことが許されるのか。(※著作権はコレクターにはありません)

現物を公の場所に展示できる(著作権法第45条)
いくら著作権が無いといってもこれくらいは許されます。展示する際に配布する小冊子などにも掲載することができるという判例もあるそうです。注意点は、屋外で恒常的に展示したり、原画がメインの画集を作るような利用はNGということ。

ホームページやSNSに掲載するのは?
著作権者の許可があれば可能となるようです。ですがそんな許可を取ってから掲載している人は少ないと思います。セル画など含めて大量にアップされているので、著作権者がいちいちすべてに反応するのは難しい。そのため指摘される機会は少ないと思いますが0ではない。掲載したことで何か問題が起きた時は自己責任。

売買目的のために複製を公開(著作権法第47条の2)
原画を売りたいと思ったときに、取引を円滑にするために複製の公開が許されています。なのでオークションなどで画像を掲載するのは大丈夫。

※1 原画が盗品だと分かっていて入手した場合は所有権は有しませんが、盗品かどうかは元の所有者がその旨を訴えない限りコレクターは知りようがない。一般に販売したり、制作スタッフに配ったり、関連業者にまとめて売り渡したり、そのようなケースも普通にあるので。また中間生産物は元の所有者が誰かハッキリ分からないという状況もある(製作委員会なのか、制作会社なのか、実際に描いたフリーランスのスタッフなのか)。

参考ページ
買った絵画の絵ハガキは自由に作れる?? ~所有権と著作権にまつわる話

米国でミッキーマウスの著作権が2023年末で終了したら日本でも自由に使えるようになる?

「銀河鉄道999」アニメーターがメーテルのイラストをヤフオク出品、同人誌だったら許された?

こぼれ話

 note(有料記事)にて、より具体的な体験談を掲載しています。どんな過程を経て今の考えに至ったか、不思議な取引、あるあるなど。

ご注意:基本的に原画の写真は載せません。

リンク集

ミューゼオ 国内のコレクターがセル画や原画の画像をアップしているサイト(そんなに数は多くない)

Rubberslug 海外のコレクターがセル画や原画の画像をアップしているサイト

unkoer 制作素材がたっぷり見れるtumblrサイト

作画@wiki アニメーター別の参加作品を確認

アニメスタッフデータベース 作品ごとの各話スタッフを確認

sakugabooru 作品別やアニメータ別の映像を確認

ATAC アニメ特撮アーカイブ機構 コレクションの管理に困ったら処分する前に連絡

WEBアニメスタイル たくさんあるコラムやインタビューが勉強になります。

関連情報

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アニメ中間素材に秘められた創造性 新潟大学アニメ・アーカイブ研究センターの現在

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